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遂に出たネット配信専用のクラシック音楽

iPodの商品化を契機に、音楽のネット配信事業に参入するCDレーベルも増えつつある。クラシック音楽はJ-POPやロックなどと比較し、「1曲が長く、データ量が膨大になってしまう」「携帯プレーヤーなどではなく、高音質の場で聴くべきもの」など、様々な理由からネット配信には消極的だった。それが、昨年来のモーツァルト・ブームやトリノ五輪でのフィギュア・スケート・フィーバーに感化されたせいもあってか、2006年になってネット配信される楽曲が増えてきた。

 クラシック音楽ファンに人気のネット配信サービスは、米アップルコンピュータが手がけるiTunes Music
Store(iTMS)や、EMI系音源の宝庫となりつつある「MaxMuse」に分かれているようだ。両サービスとも、旧譜と呼ばれ、既にCDなどで発売済みの音源を中心にコンテンツを作り上げてきた。これらは市販CDよりも安価で提供しているものが多く、また全曲ではなくシングル盤のように一部の曲を抜粋して販売している。

 値頃感を前面に打ち出して利用者を獲得する戦略で、販売単価を下げるために既存の商品を再販売するというのが、これまでの常識だ。ところがその常識を打ち破る出来事が今年起きたのだ。


老舗レーベルも配信コンテンツに積極的

 今年3月、多くのクラシック音楽ファンが信頼を寄せる老舗レーベルの「ドイツ・グラモフォン」が、「iTMSと独占契約、CD販売の予定なし」という形でロリン・マゼール指揮・ニューヨーク・フィルハーモニックのライヴ音源(モーツァルトの交響曲集)を配信した。

 CDレーベルがCDをリリースしないということは、音楽配信ユーザーを本格的にターゲットとしてとらえ始めたと言える。制作コストや流通コストの軽減を考えると、音楽配信シフトの流れはさらに加速していく可能性を持つ。8月初旬現在でこのシリーズには、5つのアイテム(CD5タイトル分)が加わっている。もしかするとこれが後に「あれがクラシック音楽配信の、大きな転機だった」と回顧されるかもしれない。

 ドイツ・グラモフォンをはじめとするクラシック音楽のネット配信向けコンテンツの充実は、クラシックファンを拡大していくのだろうか。その重要なカギになるのは、ネットならではの機能である検索の使い勝手だろう。

 ネット配信のメリットは自分が聞きたいアーティストや曲を探す検索機能が充実している。クラシックで言えばベートーベンの「田園」を「ベルリン・フィルハーモニー」で聴きたいと曲名やアーティスト名で絞り込む以外に、「ベートーベン」の曲を「ウィーン・フィルハーモニー」が演奏している、というような「作曲家名」での検索も必要だ。幸いこうした基本的な検索機能は、多くのネット配信サイトに備わっている。


ユーザー本位の検索機能が成功のカギ

 しかし、基本的な検索機能だけでは、これからクラシックを聴こうとするビギナー層の心をつかむことは難しいだろう。クラシックのファンならずとも、モーツァルトの音楽は好きという人にも、自分が聞きたい曲をもっと簡単に探せるような仕組みを充実させる工夫が必要だ。

 例えば、どのような曲なのかを、わかりやすく分類する工夫が必要だ。ネットなら曲の一覧を簡単に見ることができるが、曲名からそれがどんな曲なのか想像しにくい。ネット配信では時間を限って試聴できる機能を持たせているが、クラシックだと数十秒だけ聴いただけで、曲の全体を理解するのは難しい。また曲名も初心者には違いを区別する手助けになりにくいだろう。「交響曲」「協奏曲」といったキーワードは、単なる記号にしか見えない。

 またフジ子・ヘミングや小澤征爾は知っているが、ほかのアーティストは全く分からないという人に、名演奏家の名前を並べてみても意味がない。ユーザーが社会人であれば、むしろ「出勤前に脳を活性化する音楽」「明日の活力を養うために夜はリラックスできる音楽」「仕事でミスをした日には慰めの音楽」といった、人間的な検索システムが人気を集めるだろう。

 筆者もクラシック音楽のネット配信コンテンツで使う解説を書く仕事などに関わっている。その際、ネット配信会社などから、クラシック音楽はリスナーの満足度を得るのが難しい、という話をよく聞く。そうした声を聞きながら、「対象にする顧客層を、従来のクラシック音楽ファンに限定しているが故の嘆きではないか」と思うことがある。

 今はクラシック音楽ブームと言われる。クラシック音楽に関心がある人はおよそ500万人と言われ、市場規模も約400億円。まだまだ市場の開拓余地は大きい。クラシック音楽をもっといろいろなリスナーに楽しんでもらうためには、ビギナー層にも喜んで活用してもらえるコンテンツや検索システムを充実させるなど、さらなる工夫が必要だ。筆者自身も自戒を込めて、クラシックの裾野を広げる努力をしていきたい。

山尾 敦史

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